東京高等裁判所 平成4年(行ケ)83号 判決 1994年2月08日
アメリカ合衆国ニュージャージー州07960モーリス・タウンシップ、コロンビア・ロード・アンド・パーク・アベニュー
原告
アライド・コーポレーション
代表者
ケビン・エム・サリスベリー
訴訟代理人弁護士
大場正成
同
尾﨑英男
同
嶋末和秀
同 弁理士
社本一夫
東京都千代田区霞が関3丁目4番5号
被告
特許庁長官
麻生渡
指定代理人
橋本武
同
細谷博
同
奥村寿一
同
関口博
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成2年審判第229号事件について平成3年11月7日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文1、2項と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続
原告は、「非晶質盗難防止用マーカー」と称する発明について、1981年11月2日付けのアメリカ合衆国出願に基づく優先権を主張して、昭和57年11月2日、特許出願をしたところ、特許庁は、平成元年8月30日、拒絶査定をしたので、原告は、平成2年1月4日、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成2年審判第229号事件として審理した結果、平成3年11月7日、上記請求は成り立たない、とする審決をした。なお、出訴期間90日が附加された。
2 特許請求の範囲(1)項記載の発明(以下「本願発明」という。)
「(1)取調べ帯域内にかけられた入射磁場に対して調和周波数の関係をもちかつそのマーカーに信号識別能を与える選ばれたトーンをもつ周波数の磁場を発生させるのに適し、本質的に式Fea Crb Cc Pd Moe Cuf BgSih(式中の“a”は約63~81原子%、“b”は約0~10原子%、“c”は約11~16原子%、“d”は約4~10原子%、“e”は約0~2原子%、“f”は約0~1原子%、“g”は約0~4原子%、および“h”は約0~2原子%の範囲にあり、ただし和(c+d+g+h)は19~24原子%の範囲にあり、分数〔c/(c+d+g+h)〕は約0・84以下である)よりなる組成を持つ非晶質強磁性材料の延伸された延性ストリップからなる磁気窃盗検知システム用マーカー。」(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
(2) 本願出願前に日本国内で頒布された引用例1(特開昭55-143695号公報)には、「探索領域内に加えられた入射磁界に対して高調波関係にあり、標識に信号の同一性を与える選定トーンを有する周波数の磁界を発生するようにした標識であって、強磁性の非晶質材料から成る長く延びた延性ストリップから構成された、磁気を利用した盗難防止システム用の標識。」(特許請求の範囲)、「標識は、本質的に式:(TaxTb1-x)MBa1-M(ただしTaは鉄およびコバルトの少なくとも1種、Tbはニッケル、モリブデン、バナジウム、クロムおよび銅ならびにそれらの混合物から成る群から選んだもの、Baは、ボロン、リン、炭素、ケイ素、窒素、ゲルマニウムおよびアルミニウムの少なくとも1種、xは約20-100原子%、そしてMは約70-85原子%である)から成る組成」(2頁左上欄14行ないし右上欄2行)が記載されている(別紙図面2参照)ところ、同引用例には、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ボロン(B)、珪素(Si)をほとんど含まず、鉄(Fe)が63~81原子%、クロム(Cr)が0~10原子%、炭素(C)が11~16原子%、リン(P)が4~10原子%であり、炭素とリンとの和が19~24原子%の範囲である組成物が包含されている。
(3) 両者を対比すると、引用例1の「探索領域」、「高調波」、「信号の同一性」、「標識」は、本願発明の「取調べ帯域」、「調和周波数」、「信号識別能」、「マーカー」にそれぞれ相当するから、両者は「取調べ帯域内にかけられた入射磁場に対して調和周波数の関係をもち、かつマーカーに信号識別能を与える選ばれたトーンをもつ周波数の磁場を発生させるのに適し、本質的に式Fea Crb Cc Pd Moe Cuf Bg Sih(式中“a”は約63~81原子%、“b”は約0~10原子%、“c”は約11~16原子%、“d”は約4~10原子%、“e”は約0~2原子%、“f”は約0~1原子%、“g”は約0~4原子%、および“h”は約0~2原子%の範囲にあり、ただし和(c+d+g+h)は19~24原子%の範囲である)よりなる組成を持つ非晶質強磁性材料の延伸された延性ストリップからなる磁気窃盗検知システム用マーカー。」に含まれる点で一致する。
これに対し、本願発明は、式中のCc Pd BgSihの原子%における分数比〔c/(c+d+g+h)〕が約0.84以下であるのに対し、引用例1では、これらの原子%における分数比についての記載がない点で相違する。
(4) 相違点についてみると、本願出願前に日本国内で頒布された引用例2(特開昭56-44746号公報)には、本願のように高透磁率、低保磁力(4頁右上欄1ないし6行)が要求される分野で「非晶質磁性合金の組成として、85~56at%(原子%)の鉄、総量15~30原子%の1種以上のガラス化元素を含むこと、ガラス化元素はボロン、珪素、炭素、リン、アルミニウム、ゲルマニウム等であること」(4頁左下欄3行ないし8行)、「ガラス化元素は、非晶質化を助長するものであるが、15at%より小あるいは30at%より大となると、逆に非晶質度が悪化し、15~30at%である必要がある。この場合、ガラス化元素は成分比には無関係に、珪素、ボロン、炭素の1~3種からなり、これらに対し半量以下をリン、アルミニウム、ゲルマニウム等で置換することが好ましい」(5頁左上欄7行ないし14行)と記載されている。このことから、Fe系非晶質磁性合金はガラス化元素の全量を炭素とすることなく、半量以下のリン等を含むことが公知であって、かかる公知技術に基づけば、引用例1のC(炭素)、P(リン)、B(ボロン)、Si(珪素)等のガラス化元素中の炭素の比率を本願発明のように0.84以下とすることができたものである。
そして、この相違点により、本願発明が引用例1、2から予測し得ない格別の作用効果を奏するものとも認められない。
したがって、本願発明は、各引用例に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められるから、特許法29条2項により特許を受けることができない。
4 審決の取消事由
審決の理由の要点(1)ないし(3)は認める。ただし、本願発明のマーカーの限定された組成が引用例1に具体的に開示されていることを認めるものではない。同(4)のうち、引用例2に関する記載及びFe系非晶質磁性合金としてガラス化元素と半量以下のリン等を含む組成の合金が公知であることは認めるが、その余は争う。審決は、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過し、本願発明の選択発明としての進歩性を否定したものであるから、違法であり、取消しを免れない。
本願発明の磁気窃盗検知システム用マーカーの組成は、引用例1に開示された包括的な組成に一部包含されているが、その組成は引用例1に具体的に開示されているものではなく、かつ、引用例1に開示された包括的な組成のマーカーに比較して予期せぬ顕著な作用効果があるから、引用発明1に対し、選択発明として進歩性が認められるものである。
引用例1には、新規な窃盗検知システムが開示されているところ、そこには入射磁界に対して同一性を認識できる高調波信号を発生するマーカー(ストリップ)の組成が包括的に記載されているが、本願発明の組成は具体的には示されていない。そして、引用例1に開示されている具体的な組成のうち、Fe40 Ni40 Mo2 B18の組成について倍音振動性信号を測定したところ、12.6~21.8MV/m3ぉである(引用例1には、この測定数値は開示されていない。)のに対し、本願発明は21.4~43MV/m3と明らかに大きな倍音振動性信号を発生するものである。このように、本願発明は極めて広汎かつ包括的な組成を示した引用発明1に対し、<1>マーカーの組成範囲が狭く限定されている、<2>この組成及び本願発明の信号強度はいずれも引用例1には開示されていない、<3>倍音振動性信号が大きく、窃盗検知システムに高い信頼性を付与することができる、<4>高価な金属であるコバルト、ニッケルを含まないことからすると、本願発明の奏する効果は極めて顕著であるということができる。
したがって、本願発明の前記のような顕著な作用効果によれば、本願発明は選択発明としての進歩性を有するものというべきであるところ、これを看過した審決の判断は誤っている。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因に対する認否
請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断は正当である。
2 反論
(1) 引用例1には、要旨、<1>探索領域に磁界がかけられており、マーカーがその磁界内に入ると入射磁界に反応して高調波を発生するので、この高調波を検出することによってマーカーの存在を検知するものであること(3頁左上欄4行ないし19行)、<2>たわまされたり、曲げられた後でも信号の同一性を確保できる磁気を利用した盗難防止システム用の標識であること(1頁左下欄9行ないし12行)、<3>前記高調波の発生は、磁界(入射磁界)に対する標識16の非線型磁化応答によって引き起こされること、また、パーマロイ、スーパーマロイ等のように高透磁率-低保磁力材料は、磁界強度がその材料を飽和させるに十分なだけ強い場合、入射磁界の振幅幅領域において非線型応答をすること、強磁性の非晶質材料は著しく大きな振幅領域にわたって非線型の磁化応答をすること、強磁性非晶質材料の有する非線型磁化応答を示すさらに追加の振幅領域は、標識16によって発生させられた高調波の大きさ、つまり信号強度を増大させること、このような特徴のため、より低い磁界の使用ができ、偽の警報が鳴るのをなくし、システムの盗難検出の信頼性を高めること、等の記載が認められる。
以上の<1>ないし<3>によれば、引用例1においては、(a)高調波を検出してマーカーの存在を検知する、(b)たわまされたり、曲げられた後でも、信号の同一性を確保する、(c)高調波信号強度を大きくしてシステムの盗難検出の信頼性を高める、との技術課題に基づいて、マーカーの組成範囲を決めたものであることは明らかである。
一方、本願発明をみると、本願発明においても引用例1の前記(a)ないし(c)と同一の技術課題に基づき、マーカーの組成範囲を決めたものであるから、両発明は技術課題を同じくするものである。また、本願発明のマーカーの組成は、引用例1に開示のマーカーの組成範囲内のものである。つまり、本願発明は、引用発明1と同一の技術課題に基づいて、マーカーの組成を引用例1の組成の一部に更に限定したものであるところ、引用例1には、「本発明を詳細に説明してきたが、当業者には直ちに理解されるように、その細部については多くの変更、修正が行われるのであって、それらはいずれも特許請求の範囲によって限定される本発明の範囲内のものである。」(7頁左上欄1行ないし5行)との記載があり、この記載からも明らかなように、細部については多くの変更、修正が行われることが示されており、ニッケル、コバルトを含まない組成を選択することが適宜可能であることが示唆されており、また、組成を変えれば電気的・磁気的特性が変わることも自明のことである。
したがって、引用例1と同一の技術課題に基づいて、マーカーの組成の一部をニッケル、コバルトを含まない組成に限定するようなことは、当業者が適宜なし得ることである。
(2) 原告は、本願発明の倍音振動性信号の21.4~43.0MV/m3(本願明細書9頁表Ⅳ試料No.1~8)をもって、顕著な効果であると主張する。しかし、上記数値は、引用発明1の実施例の倍音振動性信号の12.6~21.8MV/m3(本願明細書9頁表Ⅳ試料No.9~11)と対比しても、格段に隔たりのある数値であるとはいえないし、また、臨界的に異なるものでもない。むしろ本願発明の21.4MV/m3は、引用例1の前記実施例の21.8MV/m3を下回るものであって、格別顕著な効果であるということはできない。
(3) 原告は、高価なニッケル、コバルトを含まない組成を選択した点において本願発明は優れていると主張するが、引用例1には、ニッケルやコバルトを含まない組成の実施例も示されており、かかる組成を選択することも当業者が適宜なし得ることであり、格別のこととはいえない。
第4 証拠
証拠関係は書証目録記載のとおりである。
理由
1 請求の原因1ないし3並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがない。
2 本願発明の概要
成立に争いのない甲第2号証(本願発明の出願公告公報)によれば、本願発明の概要は、以下のとおりであると認められる。
すなわち、本願発明は、盗難防止システムに用いるマーカーに関するものであり、盗難防止システムの感度及び信頼性を高める延性の非晶質金属マーカーを提供することにある。書籍、衣類等の小売店における物品の盗難を防止するために用いられるシステムは、一般に検知されるべき物品に固定されたマーカー要素とマーカーが取調帯域を通過する際に発生する信号を読み取る器具とから成る。そして、この種の窃盗検知システムの主要な課題の一つは、マーカーから発生する信号の水準が低いため、窃盗検知システムの感度及び信頼性が制限される点にある。他の課題は、検知すべき信号を発生するマーカーの破壊を防止することが困難な点にある。マーカーが破壊されたり、折り曲げられたりすると、信号が失われるか、あるいは、その識別性を損なうような状態に変化する可能性がある。本願発明は、以上の課題の解決を目的として、前記の要旨記載の構成を採択したものである。
3 取消事由について
原告は、審決は、本願発明の顕著な作用効果を看過したと主張するので、以下、この点について判断する。
なお、原告は、相違点に対する審決の判断も争っているのでまず最初にこの点を検討しておく。審決摘示の引用例2に関する記載及びFe系非晶質磁性合金としてガラス化元素と半量以下のリン等を含む組成の合金が公知であることは当事者間に争いがなく、本願発明の相違点に関する構成のガラス化成分の成分比が引用例2に開示された成分比の範囲内にあることは、本願発明の要旨及び引用例2の前記争いのない記載を対比すれば明らかなところである。そうすると、本願発明の相違点に係る構成は、引用例2の前記記載、とりわけ、前記の「ガラス化元素は成分比に無関係に、珪素、ボロン、炭素の1~3種からなり、これらに対し半量以下をリン、アルミニウム、ゲルマニウム等で置換することが好ましい」との記載及び前記の公知の合金の組成等を考慮しながら、引用例2に示された成分比の範囲内において、必要とするガラス化の程度に応じて適宜その成分比を実験的に決定すれば足りるものと解される。したがって、当業者が相違点に係る構成を容易に想到することができないとすることは困難というべきであり、審決のこの点の判断に誤りがあるということはできない。
そこで進んで、原告主張の本願発明の顕著な作用効果の存否について検討する。まず、本願発明に係るマーカーから生ずる信号の強度についてみる。前掲甲第2号証9頁表Ⅳによれば、本願発明の実施例に係る試料No.1~8の倍音振動性信号は最も低いもので21.4MV/m3、最も高いものは43.0MV/m3であり、この他の試料については、22MV/m3台が3例、28MV/m3台が2例、33MV/m3台が1例であることが認められる。これに対し、前掲表Ⅳによれば、引用発明1と同一組成の試料No.9~11(この点は、同表記載の試料No.9~11の組成と成立に争いのない甲第3号証4頁左上欄第Ⅰ表記載の引用発明1のFe-Ni-Mo-Bの組成からなる実施例を対比すれば明らかである。)の実施例から生ずる信号強度をみると、最も低いもので12.6MV/m3であり、最も高いものは21.8MV/m3であることが認められる。そこで、この両者を対比してみると、本願発明の1実施例が示す信号強度の最高値は引用発明1の最高値を示す実施例の2倍を上回るなど総じて引用発明1よりも高い信号強度値を示すと評価することができるが、反面、引用発明1の信号強度の最高値は本願発明の1実施例の信号強度値よりも高く、また、この値は22MV/m3台にある本願発明の3例とも近似した値を示していると評価することができ、他にこの評価を左右するに足りる証拠はない。
そうすると、本願発明のマーカーから生ずる倍音振動性信号の強度がその最高値においては引用発明1の最高値の2倍以上を示しているにしても、前記のように引用発明1と殆ど同等程度を示すのものから、かえって、引用発明1の信号強度値を下回るものまであることを考慮すると、本願発明が全体として、引用発明1と対比してこれより格別に優れているとまでいうことは到底困難といわざるを得ない。
次に原告は、本願発明は、高価なニッケル、コバルトを含まない組成を選択した点において優れていると主張するところ、前記争いのない引用例1の記載によると、そもそも引用発明1においても、ニッケル、コバルトは必須成分とされていないのであるから、その点において既に上記主張は失当といわざるを得ないのであるが、念のため同発明において、ニッケル、コバルトを含む場合と含まない場合の効果について検討する。
前掲甲第3号証によれば、引用発明1の実施例としてストリップ#3にFe81C2Si4.5B12の組成の強磁性材料が掲げられていることが認められ、この組成の磁性材料からなるストリップを磁界を与えた探索領域を通過させたところ、ストリップを曲げる前も後も、活性化警報は「無」であったのに対し、ニッケルを含んだ強磁性材料からなるストリップ#1やコバルトを含んだ同#2では前記いずれの場合にも活性化警報が「有」であったとの記載(6頁右上欄3行ないし右下欄16行)が認められるところであるから、これらの記載によれば、ニッケルやコバルトを含まない組成の強磁性材料は、これらの材料を含んだものに比較して倍音振動性信号の発生が不十分であるといえなくもないところである。そこで更にこの点を検討するに、前掲甲第3号証4頁左上欄の第Ⅰ表には、引用発明1の範囲内にある強磁性非晶質体標識組成物の例が記載されている(同3頁右下欄16、17行)ところ、この中にはニッケル及びコバルトを含まない組成物(Fe-BとFe-Mo-B)が含まれているが、前掲甲第3号証を精査しても、これらの実施例が引用発明1に期待される効果を奏さないなどの不都合であることを示す記載を見出すことはできないから、これらの組成からなる強磁性非晶質体標識組成物も引用発明1の奏する効果を有するものと推認するのが相当というべきである。そこで、前記のストリップ#3のFe81C2Si4.5B12の組成物についてみるに、引用発明1が「(TaxTb1-x)MBa1-M(ただしTaは鉄およびコバルトの少なくとも1種、Tbはニッケル、モリブデン、バナジウム、クロムおよび銅ならびにそれらの混合物から成る群から選んだもの、Baは、ボロン、リン、炭素、ケイ素、窒素、ゲルマニウムおよびアルミニウムの少なくとも1種、xは約20-100原子%、そしてMは約70-85原子%である)から成る組成」であることは当事者間に争いがなく、この引用発明1の組成からすると、前記ストリップ#3は、引用発明1の前記組成成分のうちニッケルのみならず他のTb成分を全く含まない場合であることが明らかである。ところで、前記のとおり、Tb成分は、ニッケル単独に限られずニッケル、モリブデン、バナジウム、クロム及び銅並びにそれらの混合物から成る群から選んだものを意味し、かつ、引用発明1の前記一般式の組成からすると、引用発明1の組成物はTa、Tb、Baの各成分をいずれも含んだ方がより好ましい組成であるとの推認が可能であることからすると、前記ストリップ#3の例から、引用例1においては、ニッケル、コバルトを含まない組成は好ましくないとまで断ずることは相当ではなく、引用例1の第Ⅰ表記載の前記のニッケル、コバルトを含まない実施例もこのことを物語っているものというべきである。
そうすると、本願発明においてニッケル、コバルトを含まない構成を採択したことをもって、格別のことと評価することは困難といわざるを得ない。
以上の次第であるから、本願発明の顕著な作用効果を看過したとする原告の主張は採用できず、審決に原告主張の違法はないというべきである。
4 よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び附加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎浩一 裁判官 田中信義)
別紙図面1
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別紙図面2
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